問題の根源を考えること『誰のためのデザイン?』
UIデザインの観点で良くオススメとして挙げられる本です。近所の図書館でたまたま見つけたので読んでみました。
思っていたよりも本が厚く、内容は盛り沢山。読むのに体力を結構使います、452ページあるので。 その分学びも多く、UIデザイン/UXデザインの概念・目指すべきことがわかりました。
参考文献も山ほど載っているので、興味がある方はそれらにも手を伸ばしてみると良いと思います。読んでみたいと思った本がたくさんありました。
作者は認知科学者です。人間の認知能力や発見判断の能力を視点として、デザインについての言論を解説しています。普段のデザインとは異なる点からの視野を得ることが出来ますし、科学的・論理的なデザインの考え方を学ぶことが出来ました。
この本はすぐに役に立つハウツーではなく、デザイン思考の概念などが多いです。長く時間をかけて温めていく必要があります。 その場で使える付け焼き刃ではなく、長く使える基礎的な知識や考え方といったところでしょうか。
デザインの要素
良いデザインにおける重要な特性は2つ。
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発見可能性
何をどうすればいいのか
→ 操作すべき場所を見つけられるか、ひらくためのとってとかボタンとかがわかりやすいか -
理解
何を意味しているのか、どんな使われ方をするのか
→ 開くためのボタンや取っ手をどうすればいいのか、押すのか引くのかなど
以下の3つのデザインについて考察しています。色やレイアウトよりも、インタラクションな表現であったり操作するまでの理解・ルールなどに重点が置かれている印象です。
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インダストリアル・デザイン
機能・価値・外観を最適化する概念と使用を作る、形と素材を考える。
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インタラクションデザイン
何ができるか、何が起きているか、についての理解を向上させる。理解可能性と使いやすさを考える 心理学、デザイン、アート、情動の原則を利用する。
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エクスペリエンスデザイン
質と愉しさに焦点を合わせ、製品・プロセス・サービス・イベント・環境をデザインする。 情動面への影響を考える。
人間中心デザイン
人間中心デザイン(Human-Centered-Design)は心理学とテクノロジーを理解することから。ニーズと能力を取り上げ、それに合わせてデザインする。人間から機械、機械から人間へのコミュニケーションをデザインします。
特に重要なこととして、旨くいかないこと旨くいかなかったときのことを考慮することが大切です。
インタラクションの要素
インタラクションは以下の要素で構成されます。
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アフォーダンス
ものと人の関係のこと、可能か不可能が明確に知覚可能であると良い
どんなことが可能なのか。「押せる」「動かせる」 -
シグニファイア
アフォーダンスが存在することを示すもののこと。記号とかが代表的だが、音とかも含むことが出来ます。
どこでできるのか。「丸いところを押す」「矢印の方向に動かせる」 -
制約
物理的、文化的、意味的、論理的の4つ。
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対応付け
どのボタンがどの電気と対応しているのか。集合の中での対応のこと。どこを動かせばどこが動くのか。
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フィードバック
要求に対してシステムが働いていることを知らせる手段。操作が伝わっているか、受け取っているのか。遅いと不安、多すぎても不安。
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概念モデル
ものがどう動くかの説明。上記の要素が組み合わさってこれが作られる。人間はそれを理解して道具を使うことができる。マニュアルを読まないとこれが理解できないものは好ましくないと言える。
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発見可能性
何が行えるのか?今はどんな状態なのか?が判断できること
行為の心理学
何かを使う時2つの隔たりに出会います。これらの隔たりへの理解を手助けするのがデザインです。これらに対して、「わからない」「自分にはできない」という判断を人間が感じてしまうのはデザインの失敗。
- どう動かせばいいのかという隔たり
- 何が起きたのかという隔たり
行為の7段階
- ゴール
どうなりたいか
何を達成したいか - プラン
どうするか
代替となる行為は何か - 詳細化
なにをするか
今どの行為ができるか - 実行
する
どうやってやるのか - 知覚
状態が変わった
何が起こったか - 解釈
ということはこうなった
それは何を意味するのか - 比較
ゴールにたどり着いたのか
それで良いのか、達成したのか
3つの処理レベル
- 本能レベル
良いか悪いか、安全か危険かの潜在意識的な反応 - 行動レベル
学習によってもたらされる、パターンへの対応 - 内省レベル
認知的でゆっくりしている、状況や行為を評価して、予測した上で処理する
エラーの原因
根本原因解析のために5回「なぜ」を繰り返すことが紹介されています。
ほかにも、生じる前では思いつきもしなかったのに、起きたあとでは明白で予測可能だったと見えてしまうこともあります。後知恵では物事は論理的に見えるそうです。
スイスチーズのメタファー
良いメタファーだったので紹介します。 エラーによる事故の発生を「スライスされたチーズ」で説明しています。
各スライスはそれぞれがタスクとなっており、それぞれに穴が複数空いています。この穴がエラーです。 それらの穴が一直線に揃ってしまったとき、事故の発生です。
適切にデザインされていればエラーが起きたとしても事故にはなりません。穴を通過する事があっても次のスライスで止まるはずです。これは障害に対する回復力といえます。
事故の「まさにその」原因を探そうとするときは、チーズ一枚にだけ意識が向いており、複数のエラーが原因になっていることに気づけません。「もし〜だったら」という単一の原因を探してしまいがちですが、実際は原因は複数のものが重なっています。
このチーズのメタファーでは事故を減らすための方法として、以下の教訓を得られます。事故を防ぐためにできること、やるべきことは多面的に複数あるはずだということです。
- チーズのスライスを増やす
- 穴の数を減らす・小さくする
- 穴が整列しないようにメカニズムを独立する
- 穴が整列しそうな場合警告する
デザイン思考
作者のモットーとして「解決するように求められている問題を決して解決しないこと」が挙げられています。 求められている問題は、実際の問題でもなければ根源的な問題でもないことが多いからです。
何が本当の問題なのかを理解することなしに、目の前の問題を解決していることが多く、作者はそのことを危険だと考えています。 どこから問題が来たのか根源は何なのか、根本的な問題を正しく解決できることがデザインです。「間違った問題への見事な解決」はむしろたちの悪いものとして扱っています。
デザイン思考の進め方の例として、すぐに問題を解き始めるのではなく本当の問題を探すことから初めます。周りからは後戻りしているように見えるので、進捗はマイナス。管理職からは嫌な目をされることが想像できますね。
おわりに
書いてある内容は難しめで量も多いのですが、たしかにデザインを行う上で重要な概念だと思いました。 実際のプロダクトや道具に関するUI/UXの説明が多く、プロダクトデザインなんかにも通じるところがありました。
デザインを行う上で、依頼された問題のみを解決するのではなく、そもそもの問題を見つけること。この事がしっかり書いてあり、デザインを何のために使うのを理解できました。
そもそもの概念などは、なかなか学ぶ機会がありません。人に教えてもらうか本で学ぶかしか無いと思います。デザイナーに限らず、早いうちに理解しておきたい問題解決論でした。ぜひ一読をおすすめしたいです。