装丁家の頭の中を覗く『本の顔』
装丁家である坂川栄治さんの装幀ができるまでのさまざまな情報や思考を図解した本です。
まるで装丁の教科書のような本になっており、とても読みやすくおもしろい本になっています。実際の本の写真もたくさん載っており、実例を見ながらそのエッセンスを学ぶことが出来ます。いろいろなパターンの説明があり、「装丁七転び八起き」として採用案と不採用案の比較コーナーもありました。作例集としても参考になる本だと思います。
実際に本の部分やパーツの名前であったり、文字組みで使われる単語の説明などが書き込まれており、文字組みやデザインの基礎知識の習得にもつながります。本に限らずデザインの知識として情報が多い本でした。
編集者との打合せなどの部分も垣間見れるので、装丁家の仕事ぶりも良くわかります。実際に装丁の仕事に興味のあるデザイナーの方におすすめの本です。
本ができるまで
実際にデザインする以前の編集者との打ち合わせの雰囲気なども紹介されています。
打ち合わせでは「こんな人に読んでほしい」「刊行する時期」「これまでの作品の例」などの情報を受け取り、どんな顔にするのか大枠を決定します。
写真などはストックフォトを利用する場合もあれば、自ら撮影したり写真家に依頼したりもするそうです。限られた予算の中で作るためにいろいろな手段を選べると良いです。
本文組も装丁
本文のレイアウト・文字組みも装丁家の仕事です。 本文組によって実際に読むときの印象は大きく変わります。本の表紙より中面の方が、読者が向き合う時間は長いはずです。本の厚さや大きさでカバーの容量も変わってくるので、本文組から先に設計します。「手に取りやすい」「疲れない」「伝わりやすい」の三要素が基準となっています。読んでいて疲れる本は内容だけでなく、文字組みなんかにも原因があるのかもしれません。外国の本を日本語に訳したもので、たまにすごく疲れる本があります。それなんかまさにこれが原因なのかもしれないです。
カバーの制作
レイアウトを数パターン作成し、編集と相談します。デザインが決まれば、カバー・帯と表紙・扉を準に設計します。用紙や加工を選択して予算を計算。そのあといよいよ印刷所へ入稿して色校正を進めます。何度かやり取りをしつつ、意図したものが出来上がるように入稿データを修正します。
文字によるタイトル
書体選びでは、硬い内容は明朝、強いイメージならゴシック、愉快なものはオリジナル書体などのイメージがあります。この辺はWebデザインなんかも同じですね。とても勉強になります。読者の年齢層が高い場合は縦組み、落ち着きや風格が出ます。若い読者向けや翻訳書は横組にして、新しさを表現します。
文字案は大きく分けて3種類あり、作りたいイメージや表情によって使い分けます。作例もしっかり見ていればこれらのパターンを利用していることがわかります。常に利用できるパターンを用意しておくこと、それを応用してデザイン案を提案することの意味がわかった気がします。
-
作り文字
切ったり貼ったりして素材を加工した文字のこと、個性や意外性を持たせて強い印象を与えることが出来ます。
-
描き文字
筆やペンで手書きしたもの。絵やタイトルだけで表現するときにも表情が出せます。
-
活字
印刷文字で、オーソドックスな印象です。誠実さや堅実さ普遍性が表現出来ます。
イラストによる想像
イラストは上手下手や大小よりも、読者の想像力を喚起させ、内容を想像させることが大切です。イラストが作る雰囲気をよく考えます。イラストレータに依頼するときも、その人が書くイラストの個性を見る、より明確な個性であればそれに委ねることができるのでお気に入りのようです。
イラスト案には4種類のパターンがあります。
-
線画
線で書いた絵。色面が弱くなりがちですが、ワンポイントに良い。画材の印象などで表情が変わりおもしろい。
-
ペイント
絵の具で書いたもの。大きなイメージになるのでさりげない表現ができると良さそう。
-
デジタル
デジタルイラスト。無機質な質感や並列・反復など。透過なども表現出来ます。
-
立体
造形したものを撮影したもの。物としての存在感がでる。光の当て方でも印象が変わる。
色による印象
対象となる性別や年齢によって、印象を変えて合わせていく。普段の生活の中に色の選び方のヒントは隠されており、身の回りのものを参考にして作るのが一番わかり易いそうです。 色の組み合わせや隣接したときの効果などは、普段から記録しておくと良いです。見つけたものは写真に取ったりして記憶しておき、自分のお気に入りのパターンを増やしておくとデザインで役に立ちます。
写真による情報
写真は日常的に目にしている風景なのでありふれたものである印象を与えることもあります。さらに情報量も多くなってしまうこともあります。むき出しの写真ではなく、ちょっと曖昧さを残したような写真が優れていることもあるそうです。
写真案では以下のパターンが用いられます。海外の文学作品か日本の作品か、でも大きく選び方が変わるそうです。
-
モノ
内容を想像させるような写真を選べるかというところが難しそうです。
-
人物
著者本人の顔など。部位や後ろ姿を用いることで物語を想像させることも出来ます。
デジタルに飛びつかない
著者はパソコンを使わないそうです。闇雲にパソコンをいじっていても、勝手にデザインが出てくるわけではなく、パソコンはあくまでもイメージを形にする道具という認識です。
何案もイメージのアイデア・ラフを作りそれらを絞り込んでいくことが大切です。頭の中のイメージが明確化されていれば、頭の中で仕上がりが想像できます。「どういうデザインにしたいか」とイメージを作ることから取り組むそうです。
時代は進んでデジタルが優勢になり、色のパターンなどデジタルのほうが快適な部分もありますが、かならずまずは自分の中でイメージを思い描くことから始めています。
ネット書店での見え方も気にするようになっているらしく、文字の大きさなどに気を使うこともあるそうです。紙の本という制約の中で、ネット上での見え方も気にしなければならないということに、なかなか無理が生じているようにも思いました。
おわりに
装丁のデザインを行ううえでの実践的なパターンを知ることが出来ました。山ほどある装丁のデザインですが、この本で得た知識で分類してみるのもいいと思いました。似たパータンの装丁で集めてみると、なにか面白い発見があるかもしれません。
本の顔となる装丁について基礎的な知識を得ることができ、ますます興味を持ちました。ターゲットと伝えたいことをしっかりイメージして取り組むことが、装丁を始めとするデザインの基本なのかなと思います。言うほど簡単では無いのでしょうが、どこかで活かせたらいいなと思います。